心療内科・精神科

性同一性障害(性別違和感)

性の多様性について

表で示したセクシュアリティは、男/女性の二分法で分けた便宜上のものです。実際には中間にいる方や、
これらの枠組みにあてはまらない方もいる為、セクシュアリティはさらに多様化しています。



 性同一性障害(GID; gender identity disorder)は、精神疾患の診断基準として最も広く用いられているアメリカ精神医学会のDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)第5版において、性別違和という名称に変わりました。それは1つには後述するように病気や異常ではないという考え方が一般的になってきたことと、もう1つはこの第5版ではどの疾患についても障害という用語をなるべく使わないようにしたことが理由と思われます。しかし現在はまだ性同一性障害という用語の方が多く使われているため、ここでもそうすることとします。

【 症状 】
 性同一性障害とは、身体の性(生物学的性; sex)と心の性(本人が意識している性; gender)とが食い違っていることに違和感を抱き激しい苦痛や困難を感じている状態です。例えば、身体の性が女性で心の性が男性である場合(FtMと言います。逆はMtFです)、小さい頃からスカートを履いたり、赤い衣類やフリルのついた服などを着たりすることに強い違和感や辛い気持ちを持ちます。また女の子とままごと遊びをするのを嫌い、男の子と鬼ごっこや戦いごっこなどをするのが好きです。学校に入ってから女子トイレを使用することについても抵抗感を抱きます。「〇子ちゃん」などと女の子らしい名前で呼ばれること・書くことや、授業などで男女が分かれる時など女の子のグループに入ることも、とても嫌でたまりません。小学校高学年から中学生の時期に生じる二次性徴(胸がふくらむ、月経が始まるなど)に対しても強い嫌悪感を抱きます。社会に出てからも、女性として扱われる職場ではなく、トラック運転手や工事現場の労働者などの男性的な仕事に就いたり、プログラマーやマッサージ師などを自営で行ったりすることが多いのです。

【 診断 】
 以前は心の病気と考えられ、心の性を身体の性に一致させることが治療の目標とされていました。しかし発生学や形態学などといった医学により心の性が身体の性と異なるのは異常でも病的でもなく、胎児の時にある割合で必ず生じうることが分かってきました。したがって、現在は性同一性障害の問題は、心の性そのものの異常ではなく、その人の身体の性(例えば女性)によって、社会・周囲がその人に女性として生活を営むことを期待し、押し付ける性的役割(sexual role)によって生じる葛藤や苦痛であると捉えられるようになってきました。心の性を変えることは決してできないため、現在では性同一性障害においては心の性を変えるのではなく、身体の性を本人の希望に応じて心の性に近づける・変えることが行われています。

【 治療 】
 治療としては、苦痛・不安・抑うつなどに対する精神療法(カウンセリング)のみのもの、ホルモン剤の内服や注射をするもの、乳房切除・形成術を行うもの、更には性別適合手術(ペニスの除去術、造膣術やペニス形成術などのいわゆる性転換手術)を行うこともまれではありません。また改名(例えば女性らしい名前を男性のそれに変える)ことを望む人も少なからずいます。これらの内、精神療法だけの場合は特に手続きは必要ありません。しかし身体的治療(ホルモン療法、乳房切除術、性別適合手術など)については、一旦行うと再び元に戻すことはできないため、それを行う場合には慎重を期すことが必要です。日本精神神経学会の性同一性障害に関する委員会はこれまで4回に渡りそのためのガイドラインを発表してきており、現在はそれに従って診断・治療が行われています。
 それによれば身体的治療を行うに当たってはこの疾患に精通した精神科医、泌尿器科医、産婦人科医、形成外科医などによって構成された医療チームが診療と治療に当たることとなっています。埼玉医科大学や岡山大学などでは大学内にその医療チームが作られていますが、いくつかの開業医が協力してチームも作ることも可能とされており、北陸でもそのチームが作られています。ただし北陸のチームでは形成外科医は参加しておらず、診療(精神科医のそれが中心となります)と診断書の発行を行うだけで性転換手術は行いません。私(院長)もそのチームの一員です。身体的治療を始めるに当たってはそうしたチームによる検討会で適応判定されることが必要です。さらに性別適合手術においてはそのチームに法曹関係者や学識経験者などのメンバーを加えた判定会議を行うことが定められています。その診断書によって身体的治療、特に性別適合手術を受けることが可能となり、国内では埼玉医科大学や岡山大学で受けることが一般的ですが、費用(保険適応はありません)や予約が随分先になるなどの関係から東南アジアの病院で受ける人も多いようです。東京などではそうした診断書は必要なく、1~2回の診察で性転換手術を行う病院もあるようですが、あくまでもガイドラインに沿った診療を経て診断書を発行してもった上で受けることをお勧めします。

同性愛
 性同一性障害とは異なり、身体の性(sex)と心の性(gender)とは一致していますが、性的方向づけ(好きになる性:sexual orientation)が心の性と同じ場合を言います。

LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)
 性同一性障害、同性愛、両性愛などの性的マイノリティの総称です。一般用語であり、医学用語ではありません。

以上より、性別には次の4種があることとなり、それらの組合せから性的マイノリティが存在することになります。
1)生物学的性別 からだの性 sex
2)性別意識・性自認 こころの性 gender
3)性別役割 社会から付与された性 sexual role
4)性的方向づけ 好きになる性 sexual orientation

性の多様性を分かりやすく整理したものが1番上の表です。

心療内科・精神科

  1. パニック障害(不安障害)

    パニック障害(不安障害)

    その不安や恐怖は、「考えすぎ」や「心配性」など気持ちのもち方や性格の問題ではないかもしれません。

  2. 睡眠障害(不眠症)

    睡眠障害(不眠症)

    「最近よく眠れない」「寝てるのにスッキリしない」と感じていても、自分の睡眠状態がわからない方はよくいらっしゃいます。代表的な不眠の症状にどういうものがあるのかを知り早期発見を。

  3. うつ病

    うつ病

    うつ病の方の97%は、2つの質問のうち、どちらか一方があてはまるとの研究報告があります。    その質問とは…

  4. 認知症

    認知症

    物事を記憶する、考える、判断するなどの脳の認知機能が低下し、日常生活に支障をきたしてしまうことを指します。

  5. 統合失調症

    統合失調症

    常に誰かに見られている気がする… 誰かにいつも悪口を言われている気がする… そう感じたことはありませんか?

  6. 自閉スペクトラム症(ASD)

    自閉スペクトラム症(ASD)

    「臨機応変な対人関係が苦手で、自分の関心・やり方・ペースの維持を最優先させたいという本能的志向が強いこと」を特徴とする発達障害の一種です。

  7. 躁うつ病(双極性感情障害)

    躁うつ病(双極性感情障害)

    うつ病だと思いながらも、極端に調子がよくなって活発になる時がある方は、躁うつ病かもしれません。

  8. 注意欠如多動症

    注意欠如多動症

    集中できない、忘れ物が多い、ケアレスミスが多い、我慢できない、周りに落ち着きがないと言われる…そんなお悩みありませんか?

  9. 社交不安障害(SAD)

    社交不安障害(SAD)

    “ 緊張 ”と聞くと誰にでもありうる事ですが、毎回強い不安、動悸、下痢、発汗、時にパニック発作といった不安症状が起こります。

  10. 身体表現性障害

    身体表現性障害

    身体の検査結果は異状がないのにも関わらず、身体の病気と思われるほどの症状があらわれ症状に伴う苦痛、不安によって、生活に支障が生じます。

  11. 心身症

    心身症

    身体疾患の治療は身体の治療だけで大丈夫でない場合があります。心身症は様々な疾患の発症・進行・回復・再発に関係しています。

  12. 摂食障害(中枢性摂食異常症)

    摂食障害(中枢性摂食異常症)

    「やせたい」という強い思いがあったりと、本人はなかなか治療したがりません。しかし、低栄養から様々な体の不調につながり、死に至ることもあり拒食・過食とも治療が重要です。

  13. 性同一性障害(性別違和感)

    性同一性障害(性別違和感)

    性の違和感を感じていませんか?身体の性と心の性との不一致により困惑や苦痛を感じます。

  14. パーソナリティ障害

    パーソナリティ障害

    パーソナリティ(人格)の極端な偏りがあり、それにより自己または周囲が苦しんだり迷惑を被ったりします。

  15. 心的外傷後ストレス障害(PTSD)

    心的外傷後ストレス障害(PTSD)

    トラウマだからPTSDじゃないかもしれない…そう思っていませんか?PTSDでなくても今つらい思いをしているのなら一人で我慢せずご相談を。

  16. 不登校

    不登校

    不登校における原因の半数はメンタルヘルスの問題(文化省調査)とされており、いじめが原因でない場合もあります。

  17. 適応障害

    適応障害

    強いストレスが持続してかかった際に心身のバランスが崩れて気分が落ち込み、不安の症状が強く生きるのが辛くなり日常生活に支障が出てしまいます。

  18. 気分変調性障害

    気分変調性障害

    ここ最近毎日気分が落ち込んだり、ネガディブになったりしていませんか?気付くことが治療の第一歩です。

  19. 月経前症候群(PMS)月経前気分障害(PMDD)

    月経前症候群(PMS)月経前気分障害(PMDD)

    生理前は誰だって辛い…そう思って我慢していませんか?症状の重さは人それぞれです。

  20. 強迫性障害

    強迫性障害

    「しないではいられない」「考えずにいらない」そう頭によぎって自分では不可避となります。

PAGE TOP