心療内科・精神科

パーソナリティ障害

 パーソナリティ障害は、パーソナリティ(人格)の極端な偏りがあり、それにより自己または周囲が苦しんだり迷惑を被ったりする障害です。これまで種々の分類がなされてきましたが、DSM-ⅣとDSM5ではA群(奇妙で風変わりな群;統合失調症圏)に3つ、B群(演技的、情緒的で移り気な群;ヒステリー圏)に4つ、C群(不安で内向的な群;不安・抑うつ圏)に3つ の合計10種のパーソナリティ障害が揚げられています。こうした分類はカテゴリー分類というもので様々なパーソナリティ障害の内、よくみられる代表的なものを択び出したものです。ごく一部の人にしか当てはまりません。
 パーソナリティ障害の中で最も来院される方が多いB群の中の境界性パーソナリティ障害について紹介致します。

境界性パーソナリティ障害(ICD-10では情緒不安定性パーソナリティ障害)
【 歴史 】

 かつては境界例(borderline case)と呼ばれ、それは神経症と精神病の境界にある精神障害という意味でした。そしてその位置付けも、統合失調症、躁うつ病、重症神経症、人格障害など、いろいろと意見が分かれていました。それが、DSM-ⅢR及びICD-10において、パーソナリティ障害に位置付けられ、従来の統合失調症型パーソナリティ障害(A群)と境界性パーソナリティ障害とに2分されました。

【 症状 】
自己、気分、対人関係などの不安定さを特徴としています。
・自己像、自己評価について過大な自信、自尊心と自己卑下、自信喪失との間を揺れ動き、陽気、活動的な時と卑屈、絶望、自傷、自殺企図などの時期とがあります。
・過剰な理想化と過小評価の両極端を揺れ動く対人関係がみられます。したがって、人を非常に称賛したかと思うとその人を徹底的に非難したり攻撃したりします。
・そうした自己、気分、対人関係での激しい変化・不安定性とその行動化(acting out;リストカットなどの自傷行為、自殺企図、浪費、アルコールなどの物質乱用、性的逸脱行為、無謀な要求など)により周囲の人を困らせます。例えば、こうした患者が入院すると病棟スタッフ、他患が巻き込まれて、対応に苦慮し窮地に立たされ、病棟全体が混乱することがしばしばあります。

【 治療 】
 パーソナリティ障害の人は治療によって治るあるいは変わるのでしょうか。これには簡単に答えることはできません。
まず、パーソナリティ障害のように見えながら実は他の疾患であるものは治る可能性があります。例えば、内向的で自己主張ができないといったことで悩んでいる人の中には、気分変調症(以前は抑うつ神経症と呼ばれていました)の場合があります。その場合は抗うつ剤やカウンセリングによってある程度変わることが期待できます。また、どうも落ち着きがなく、人の話を注意して聞いているのが苦手で集中力が続かず、仕事や日常生活でミスが多いという人は、注意欠如多動症(ADHD)であることが少なくありません。この場合ADHDなどの薬や生活での工夫により、かなり改善がみられます。さらに、平常は穏やかであるのにまれに(特に家族に対して)強く怒りを爆発させるという人もいます。これもてんかん発作である場合があり、その時は抗てんかん薬の内服によって良くなることがあります。
 次に本来のパーソナリティ障害についてですが、一般論としていえば、本人がその障害・特徴を自覚していて、何とかして改善したいという治療意欲が強い場合は改善の可能性があります。大まかに言うと、前述した3つの群の内、C群次いでB群に本人の自覚や改善意欲が強いことがみられることがあり、A群の人にはほとんどみられません。治療はカウンセリングが中心ですが、時に薬物療法を併用することもあります。いずれにしても人格を変えていくというのは短期間で出来ることではなく、長期戦(少なからず生涯をかけた作業)となります。

《 付録 》
 パーソナリティ障害と自分の性格が好きでないということは、少し異なったものです。前者は精神疾患ですが、後者は一般には違います。しかし、両者共に、本人がそれを自覚して何とかして変えたいと思った時は、共通項が生まれます。そこで、後者についての自身の見解を自分に即して述べた随想を、以前ある雑誌に書いたことがありますので恐縮ではありますが、何らかの参考になればと、出版元の許可を得て、下記に転載します。


性格は変えられるか
武生 桑原照茂

 「どうして精神科医になったのですか」と尋ねられることが稀ではない。その時は大抵正直に「自分の性格を変えたかったからです」と答える。私は高校を卒業して法学部に進学したが、法曹界にも官僚にも一般企業にも向きそうになかった。そして人間関係が(嫌いではなくむしろ好きであったが)苦手であったし、自分の性格が厭で何とか変えたいと思っていた。そこで初めは哲学か心理学に転向しようかと思い、少しかじったりしたがどうもピンとこなかった。そうした中で、木村敏先生(当時名古屋市立大学、後に京都大学教授)の著作を読んだことと、精神分析医の高山直子先生(現在大阪の高山診療所名誉理事長)との出会いにより、「私の悩みを解決してくれるのは精神医学だ」と感じ、精神科医になるべく医学部に入り直した。以来40年程が経つわけだが、果たして精神医学は性格を変えられるものであったであろうか。
 精神科の治療には主に薬物療法と精神療法の2つがあるが、前者は幻覚、妄想、抑うつ、不安等々の症状をターゲットにしたもので性格を変えるものではない。そこで後者であるがこれまでその主流であったのは、精神分析およびそれを簡略化した精神分析的精神療法である。周知のように精神分析はS.フロイトによって1900年頃に創始されたものであるが、ここでは日本の精神分析の第1人者であった土居健郎先生(故人、元東京大学教授)の甘え理論に従って考えてみよう。昭和46年に発刊されて以来ロングセラーを続けている「『甘え』の構造」をご存知の方も多いだろう。
今から20年程前、私が仕事から帰ると当時中学生であった次男(健)が「TSUTAYAに連れて行ってくれない?」と尋ねてきて、私は了解した。その車の中で次男が「お父さん、この頃『甘え』の本をたくさん読んでいるけど『甘え』って何?」と訊いてきた。私は少し考えてから「さっき健がビデオ屋に乗せてってくれないかと尋いたけど、その時もし僕が断った時健が落ち込んだり腹が立ったりしていたら、健は僕に甘えていたことになるんだよ」と答えた。つまり「相手の好意をあてにすること」が甘えといえる。かといって甘えが全て悪いというわけではない。人間関係において甘えが全く排除されてしまえば、随分とぎすぎすして殺伐としたものとなるだろう。人間社会が潤いと温か味のあるものとなるために、甘えは必要不可欠なものといえる。これは健全な甘えである。乳幼児期に養育者(特に母親)との間で十分に甘えることのできた子供は、その後健全な甘えによる人間関係を営むようになる。
ところが甘えを充分体験できなかった場合は、甘えたい気持ちがその後も永くくすぶり続けその満足を求め続けることになる。陰に陽に(多くの場合は陰に、つまり屈折した形で)相手の好意を求めあてにする生き方になり、これが病的な甘えである。甘えさせてもらえるかどうかは相手次第なので、相手の機嫌を損ねないようにと「おもねる」「へつらう」「取り入る」といった自己卑下的になり、自信・自尊心が育まれない。そして受け容れられた時は有頂天になり、拒否されたと感じると落胆したり怒ったりし「すねる」「ひがむ」「ひねくれる」「うらむ」といった態度に出る。土居氏はこうした甘えこそがあらゆる精神の健康にも病理にも根源的に作用していると考え、甘え・依存欲求を組み入れることによって、フロイトの精神分析を再構築したのである。
では土居氏は乳幼児期に甘えを十分享受することができなかったために病的な歪んだ性格をもった人は、精神分析を通してそれを変えることができると考えたのであろうか。答えは否である。分析医と患者は分析を通じて親と子の関係を再現するが、それは患者を甘えさせることではなく分析過程の中で当時の自分の感情を再体験し自覚することによって、現在の自分と過去の自分とが自由に往来することのできる道筋を作るのだ、と氏は言う。つまりこれまでは無意識・無自覚であった甘えを意識化し、それをコントロールできるようになることが治癒像なのである。氏はこれを「自らの甘えを十分に自覚した上で、それを心の内に包み込むようになること」こそが、甘えを克服して成熟した大人になることだとも述べている。
さてこの伝統的な精神分析に代わって最近急速に拡まってきた精神療法が認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy: CBT)である。これは症状の背後にストレッサーとそれに対する患者のストレス反応の悪循環が起きていると考える。そのため、ストレス反応の構成要素の中の認知(例えば、「自分はだめな人間だ」「もう手の打ちようがない」など)と行動(例えば、ひきこもり・過食など)を修正することによって、悪循環を打開して症状を改善しようとする治療法である。1980年頃より臨床で行われるようになったが、初めはうつ病や不安障害(パニック障害や強迫性障害など)を主な対象とした治療で、性格の問題を取り扱うことはなかった。しかし次第に進化・発展し、古典的な第1世代のCBTに対し、現在は第3世代といわれるいくつもの治療技法が開発されている。
その1つがスキーマ療法で、日本では伊藤絵美先生(洗足ストレスコーピング・サポートセンター所長)を中心に臨床・研究が進められている。これは創案者のJ.ヤングがパーソナリティ障害の治療にCBTを改良しようとして産み出されたという出自からもわかるように、性格に悩む人を主たる対象にしている。スキーマとは、認知(思考)の深層にあってより表層の認知を支配・規定しているものである。スキーマ療法では単に認知領域だけでなく心全体の最も奥底にあって、生来の気質や人生早期の満たされなかった感情欲求によって形成された「早期不適応スキーマ」を修復しようとする。そのために治療者は親代わりとなって、患者の幼少期に満たされなかった欲求を満たすことも行われる。
しかしこの治療により病的な性格をすっかり変えることができるのであろうか。ヤングも伊藤氏も、早期不適応スキーマは強固なもので完全に解消されることはなく、自分がそれをよく理解しそれと上手に付き合っていけるようになることがスキーマ療法のゴールである、と述べている。
以上、精神分析(甘え)とCBT(スキーマ療法)について概説したが、「性格は変えられるか」ということについての両者の結論は酷似している。つまり、病んでいる性格それ自体をすっかり修復してしまうということはできない。しかし、それまではその背後にある甘えや早期不適応スキーマについて無知であったためにそれらに巻き込まれ支配されて生きてきたのに対し、治療を通してそれらを自覚し理解することによって、それらと距離をとりコントロールできるようになる、ということである。端的には、病的性格の本態である甘えや早期不適応スキーマの奴隷であった自分が、治療によってその主人となることができる、とも言えよう。
今の私の性格は40年前と大きく変わってはいないだろうが、精神科医となり精神療法に親しんで本当によかったと思っている。

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  12. 摂食障害(中枢性摂食異常症)

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  13. 心的外傷後ストレス障害(PTSD)

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    トラウマだからPTSDじゃないかもしれない…そう思っていませんか?PTSDでなくても今つらい思いをしているのなら一人で我慢せずご相談を。

  14. 性同一性障害(性別違和感)

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